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2010年5月12日 (水)

小説「天人五衰」の海

 沖の霞が遠い船の姿を幽玄に見せる。それでも沖はきのうよりも澄み、伊豆半島の山々の稜線も辿られる。五月の海はなめらかである。日は強く、雲はかすか、空は青い。

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 きわめて低い波も、岸辺では砕ける。砕ける寸前のあの鶯いろの波の腹の色には、あらゆる海藻が持っているいやらしさに似たいやらしさがある。

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 乳海攪拌のインド神話を、毎日毎日、ごく日常的にくりかえしている海の攪拌作用。たぶん世界はじっとさせておいてはいけないのだろう。じっとしていることには、自然の悪をよびさます何かがあるのだろう。
 五月の海のふくらみは、しかしたえずいらいらと光の点描を移しており、繊細な突起に充たされている。

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(中略)

 午後三時十分。今どこにも船影がない。
 不思議なことだ。これだけ広大な空間が、ただほったらかしにされているのだ。

                                       文:三島由紀夫

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小説では伊豆半島の海ですが、写真は茨城の海です。

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