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2010年8月22日 (日)

私のバイク遍歴(42) 不惑の決断

私は40才になっていた。
毎日ミニバンに乗って、自宅と会社を往復する毎日。オートマ、高い重心、3000回転すら滅多に回さないエンジン。便利だが、運転していて少しも楽しくない。
週末には家族を連れてどこかに遊びに行く、いわゆる「いいお父さん」だったが、何かもやもやしていた。

家族旅行で行った船の科学館
Img_2036

いいお父さんが虚像だというのではなく、例えて言えば、スパイスのきいていないカレー、七味唐辛子のない豚汁、うずら卵のない中華丼のようものだ・・・(この例えは正しいのか?)。
変わりばえのない、凪のような毎日・・・・・。

40才といえば、「不惑」の齢である。孔子によれば・・・
『我十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず。五十にして天命を知り、六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従つて矩(のり)をこえず。』

しかし、私の心の底では、ある感覚がざわめきだしていた。不惑どころではない。
子供にあまり手がかからなくなって、自分の時間が増えた頃だったろう。それは、時折、心の底で閃光のようにきらめいた。
そして日を追うごとに徐々に強く、回数も多くなっていった。仕事中も、飯を喰っていても、風呂に入っても、布団に入っても、そのことが頭から離れなくなった。


私が心酔する小説、三島由紀夫の「春の雪」にこんなくだりがある。

・・・・・遠い喇叭(ラッパ)の響きのようなものが、清顕の心に湧きのぼった。
「僕は聡子に恋している」

 

                                                               

まさにそれと同じように、

「もう一度バイクに乗るのだ」

という気持ちが湧きのぼった。

そうだ、もう一度乗ろう
2つのメーターの針が踊ると、周りの景色が絵の具を流したようになる、あの風の中にもう一度戻るのだ。
それに、今乗らなければ、もう、乗れなくなってしまうかもしれない・・・。

私は決心した。そういう意味では、迷うことはなかった。一度決心すると、何もかもが魅力的に思えてきた。
掌についたグリップのゴム臭さも、夏場のエンジンの熱気も、頬に貼りつくヘルメットも、グローブやジャケットに塩の結晶が白く浮き出るのも、冬にはレバーを握る以外何の動作もできないほど凍えてしまうのも・・・凪のような毎日からすれば、それはわくわくする世界だった。
小説は、こう続いている。私も、こんな感じだったかもしれない。

 「今こそ僕は聡子に恋している」
 彼は落ち着きなく椅子から立上り、また座った。  (中略)
 窓をあけ放ち、日の輝く池を眺め、深呼吸をして、すぐ鼻先に迫る欅若葉の匂いを吸い込んだ。紅葉山のかたえにわだかまる雲の形には、すでに夏の雲らしい光を含んだ量感があった。
 清顕の頬は燃え、目は輝いていた。彼は新たな人間になった。何はともあれ、彼は十九歳だった。

Img_8607

写真は、本文には関係ない長崎のグラバー邸です

          水色の文は、三島由紀夫の小説「春の雪」からの抜粋です。

私は四十才だった(笑)。

続く・・・

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私のバイク遍歴」カテゴリの記事

コメント


私は、四十二歳だった・・・(笑


投稿: エボる | 2010年8月22日 (日) 21時00分

いちごさん、こんにちは。
凧のような毎日、よくわかります。
今はリターンして、週末が待ち遠しいですよね。
そういえば、私が今の状況になったのも丁度40歳のときでした。
ちなみに、嫁の名前は聡子でした(爆)

投稿: まつ | 2010年8月23日 (月) 12時58分

リターンって、勇気いりますよね。
バイクも買って、ウェアも揃えて....。
それで、果たして乗れる時間がとれるのか?...って。
始めちゃうと、もとの生活には戻れないかな?

投稿: おくさん | 2010年8月23日 (月) 16時22分

こんばんは、いちごさんの文才に脱帽です。
私も40歳の時でした。
やはり厄なんでしょうか・・?
気力のあるうちに乗れるのは最高です。
さと子・・・いい名前だ・・・字は違いますが「さと子」には美人さんしかいません!

投稿: shingo | 2010年8月23日 (月) 21時03分

こんばんは。

私、いちごさんの「私のバイク遍歴」
の大ファンです。
とっても面白く、なつかしく、
自分の過去もフィードバックして読み続けてます。

ホント冊子にしてください。
一冊ぜひとも欲しいです。
バイクの写真とサイン付きで!!

これからも書き続けてくださいね。(笑)

投稿: グランCB | 2010年8月23日 (月) 22時26分

エボるさん、おばんです。
実は・・・タイトルの便宜上40才ということにしてますが、実は42才でした(笑)。

投稿: いちご | 2010年8月24日 (火) 18時56分

まつさん、おばんです。
確かに週末が待ち遠しいですね。天気も気になります。
がまつさんの場合は、あと少しで冬になってしまいますね。

>丁度40歳のときでした。
上に書いたように、本当は42才でした(笑)

>嫁の名前は聡子でした
あら、いいお名前ですね。小説ではこのあと仏門に入ってしまうのですが(深い意味はありませんよ)。

投稿: いちご | 2010年8月24日 (火) 18時59分

おくさん、こんばんは。

>リターンって、勇気いりますよね。
いりますね。バイクウェアって、一時期普段着に人気だったようですが、とても街中で着る気はしないし。ブーツなんて他にはく機会ないし・・・(笑)。ましてヘルメットなんて使い道ないし(爆)。

が始てしまって、もとの生活に戻れなくても、こりゃいいものですよ。
リターンして後悔していませんぜ!

投稿: いちご | 2010年8月24日 (火) 19時10分

shingoさん、おばんです&ありがとうございます。

>私も40歳の時でした。
実は、42でしたが(笑)。

>気力のあるうちに乗れるのは最高です。
最高ですね。体力もまだまだありまっせ(爆)。

>字は違いますが「さと子」には美人さんしかいません!
おお! 経験に裏付けられたような言い方ですね。あとでお聞きしましょう(爆2)。

投稿: いちご | 2010年8月24日 (火) 19時16分

グランCBさん、おばんです&ありがとうございます。

>自分の過去もフィードバックして読み続けてます。
今度、是非書いてみて下さいな。

>一冊ぜひとも欲しいです。
資金さえあれば、作りたいですね、もっと脚色して写真も入れて。

>これからも書き続けてくださいね
まだ、10回以上はあります。
グランCBさんも、大型の世界にいかがですか(ニヤリ)? 重さは、慣れですから。

投稿: いちご | 2010年8月24日 (火) 19時20分

ご無沙汰してます。
私がそれまで迷っていた「大型所得」をしたのが、40歳でした。
まさに「不惑の40」(笑

CBのみなさんと出会ったのがきっかけですが、あの時取っておいて良かったと思います。

って、まだ、CBになってからいちごさんとご一緒させて頂いてないんですよね。
今度是非、ご一緒させてください

投稿: Papa | 2010年8月26日 (木) 10時04分

Papaさん、おばんです。やはり40才前後なのですね。

>あの時取っておいて良かった
そうですね。やはり大型は違いますから。あの方とあの方を引きずり込みたいですね(笑)。

ところで、確かにPapaさんのCB、一度も見ていません。一緒に走ったのは、一昨年の富士山だけですね。ご一緒したいです。

投稿: いちご | 2010年8月27日 (金) 21時36分

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