私のバイク遍歴（45） バイク屋Ａ

買うバイクは決めた。
さてどこで買うか、私はバイク屋めぐりを始めた。試乗ができれば一番よかったが、それはどこでもやっていないようだった。
まず最初に行ったのは、国道沿いにある大型ショップ。
この店はホームページでも逆輸入車を多く取り扱っていると謳っているだけあり、外にもHAYABUSAやZZR1400が何台も並んでいた。

ところでシリーズ（44）回では、SC54とSC40の違いを書いているが、当時の私は、その違いを、シリンダーフィンがあるかないかと、車重だけだと思っていた。

SC40のカタログ
それらを踏まえた上で・・・

車を停めて外に出ると、真夏の太陽が真上から照りつけた。新築でしかも、壁も路面も白いコンクリートなので、やたら眩しくて暑かった。しかしバイクに乗っていた頃は、この直射日光と気温の中、ヘルメットをかぶって走っていたのである。今の自分にできるのか一瞬不安になったが、それよりは楽しみのほうが大きかった。

バイク屋に来るのも、13年ぶり。
目立たないよう、しかし背伸びして首だけ突き出すように遠巻きに眺めはじめると、ほどなく社長が寄ってきた。すぐに気づかれてしまったわけだが、実はこの店は、13年前GPz750Rの修理を頼んだところで、年下の社長は私の顔を覚えていた。

「お久しぶりですね、今度は何をお捜しで？」
「CB1300が欲しいんです。程度のいい中古がないかと思って」
「あぁ、何台かありますよ。どうぞ、こちらへ」　彼は私を店の中に招き入れた。

13年ぶりに見る彼は、時の経過を感じさせた（笑）。それに以前は独身だったようだが、この太り具合は、確実に奥様がいるのだろう。随分丸くなった。
通路が所々狭いので、彼は時々横向きに歩いた。その大らかな腹を見ながら、俺はあれ以上のおっさんなのだと考えながらついていくと、中央にはCB1300が5台ぐらい、行儀よく並んでいた。

写真は、とあるツーのものを流用しました（笑）

しかしデカイ。カッコいい。速そうだ。
マフラーはどれも1本だったが、早くこれにまたがって、目の前の国道をすっ飛ばしてみたいものだ。そういう世界を、もう何年も我慢してきたのだ。
それに、20年前と比べて、フロントフォーク、スイングアーム、リアタイヤの太さはどうだ・・・

と見とれていると・・・。

「SC40がいいですか？　それとも54？」
「・・・・・・・・・・は？　何ですかそれ。よんまるでもごーよんでもない、1300ですよ欲しいのは」
「あっ、　　そ、　　そうですね・・・」

1300だと言っているのに、「よんまる」だの「ごーよん」だのと、彼は訳の分からないことを言った。そんなことより、マフラー2本とフルパワーが大事なのだ。

「フルパワーのが欲しいんです」ときっぱり。
「これはフルパワー仕様です。こっちはフルパワーにするのに、えらく面倒です」
どうやら、フィンのあるCB1300は、フルパワーにするのに手間がかかるようだった。フィンのあるなしが、何故その違いを生むのか、まるで理解できなかった。

「これはフルパワーでフルエキだから、パワーは一番出てます」
（フルエキ？　降る駅？　古液？　降る液か？　何だそれ・・・）

「これはスリップオンだから、パワーはちょっと少ない」
（スリップオンて何だ　下○の一種か、いやそんな筈は・・・）

またしても、意味不明の言葉が出てきて戸惑った。冷や汗が出てきた。
が、それが普通に使われている用語であることだけは分かった。したがって
「ふるえきって何ですか？」とか
「すりっぷおんて何？」
と尋ねることは、自分が無知で馬鹿な浦島太郎であることを告白してしまう恐れがあり、私は分かったふりをした（爆）。
【注】昔話の浦島太郎が馬鹿だと言っているのではありません。

「マフラー2本のはないんですか？」
「ないですね。リッタークラスになると、車重を軽くするために社外マフラーにつけかえたり、2本を1本にする人はいますが、1本をわざわざ2本にする人は、あまりいませんよ」

やがて社長は、私にあまり買う気がないと見たのか馬鹿っぷりを見抜いたのか、とんちんかんなことを言われたためか、他の客と話を始め、しまいには裏の倉庫に行ってしまった。

（ここで買うのはやめよう）
何となくそう思った。それに、フルエキとスリップオンという用語も調べないといけなかった。
火の玉タンクのゼファーが1台入ってきたところで、私は店をあとにした。

2006年の夏のできごとである。

続く・・・