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2011年1月12日 (水)

VMAXの女

1月、睦月。寒い日が続いている。
空を見上げれば冬特有の蒼い色が一面に広がり、上空の雲は関東平野の冷たい西風に乗って、毎日形を変えながら、東へ動いてゆく。
それでも今朝は、狭い庭に降り立ったら珍しく暖かかった。庭の梅の蕾はまだ小さいが、冷たい中に春を思わせる風を感じたので、重いSBを引っ張り出して走ってみようと思った。あてもなかったから、1時間も走って帰ろうと思っていた。
そんな何の変哲もない、冬の一日で終わるはずだった・・・。

でもそうは終わらなかった。道すがら、街中の信号で止まっていたら、後ろから1台のバイクが近づいてきた。段々大きくなってくると、それは新型VMAXであった。実車を見るのは2回目だろうか。

やがて彼は横に止まった。視線を向けると、その圧倒的な存在感に圧倒された。黒光りするshine巨大な車体、造形の妙、見事なバイクである。

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がよく見れば、それは若い女rougeであった。
黒い革の上下に黒いヘルメット、スモークシールド。しかし人は対象物を、素材ではなく形で認識する。曲線で構成された全体の細いシルエットと、肩にかかる長い茶髪は、どこから見てもそれが女であることを示していた。信号は赤だったから、彼女はシールドを上げ、ミラーで化粧を気にし始めた。見れば、とても美しい人shineである。
推定身長170cmぐらい。細身の身体で、300kgはあろうかというVMAXを自在に操る。しかもすごい美人。

 

こんなことがあろうかsign02  いやしかし、これは現実である。それでも彼女は、そんな男どもの視線eyeには慣れてしまっているのだろう。背筋を伸ばして凛とした姿は、周囲の視線を跳ね返していた。

でもその直後、彼女が私のバイクを見て、「あれっ?danger」と一瞬驚いたのを、私は見逃さなかった。だから話しかけてみた。ぼやぼやしていると、信号が青になってどこかへ行かれてしまう。

「こんにちは。どうかしました?」
「いえ、何でも」
長い睫毛の奥で、2つの目が弓なりに笑い、視線は妖艶さを残しながらも親しみやすい色に変わっていた。

「これから、どちらへ行かれます?」
「決めてないんです」

思い切って言った。
「じゃあ、一緒に走りませんか?」
「・・はい、ついていきます」
そのとき信号が青になり、彼女はシールドを閉めた。

まずは間に合ってよかった。しかしそれは意外な返事であった。どこにしようか迷ったが、ビーフラインへ行くことにした。

 

推定20代後半、細身の綺麗shineな女性である。早々に止まって話でもすればいいものを、オヤジはそんな女性を前にするとシャイになってしまうのだ。まずはちょっとだけ走って、それからライダーの会話をすればいいとヘルメットの中で考えた。一度止まって、それまでの走りを話題にすれば、何とか話も続くだろうと。

私は頻繁にミラーを見ながら走った。彼女は風貌だけでなく、走る姿も端正である。すり抜けも上手だしスタート時の左右安全確認signalerも忘れずにしている。乗り慣れていることは間違いない。第一、そうでなければ、こんなモンスターマシンには乗らないというものである。

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ビーフライン中盤にさしかかった頃、私は引き離そうと思って、不意にコーナー立ち上がりで思い切ってアクセルを開けてみた。たとえV魔でも、そこは女の子、そうそうついて来られるはずがないだろうと。

がそれは幻想だった。彼女はぴったりついてきたのである。時には落ち葉でフロントを取られ、時にはつま先をすりながらビーフラインをかなりのペースで走り抜けるも、距離は離れるどころか、一向に縮まることはない。きっと、彼女のほうが断然速いに違いない。それでも、私を追い越そうとはせず、一定の距離を保ってミラーの中にいた。

 

 

走ること約1時間、私は左にウインカーを出し、R118の久慈川を見下ろす高台のパーキングで止まった。

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ここは道路がゆるい右コーナーの上り坂になるところで、左にある高台から眼下に久慈川を見下ろすことができる。その先には単線の線路が見え、1時間に1本ぐらい、客車を引いたディーゼル機関車がゆっくりと北へ向かうのが見えるのだった。
午後の太陽はすでに西空にさしかかり、川面に冬の太陽を鈍く光らせていた。目の前には、営業しているかどうか分からないような古びた商店があり、自販機が置いてあった。休憩だけのつもりだったので、私はヘルメットをかぶったまま、適当な缶コーヒーを2本買い、急いでバイクのところへ戻った。

 

 

すると彼女は既にヘルメットを脱いで、頭を斜めにして髪の毛を梳いているところだった。そして私の足元あたりに視線eyeを落とし、伏目がちに言った。

「あのう、違ってたらごめんなさい。いちごさん・・・ですよね」
「は、はい、そうですが・・・」
「やっぱり。私、最初の信号で気づいたんです。ブログ見てたから、すぐ分かりました」
彼女は私を見て、胸の前で両手で握りしめながら言った。

こんないい女が読者だったとはsign03 私の胸は高鳴ったheart04

 

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「07モデル、ツインマフラー、漢前ステッカーって、まずいないですよね。それで、あれっflairsign02て思ったんです。運良く話しかけられたから来ましたけど、こんなこと滅多にありませんよ。今日は、ブログ見てたから特別です」
そう言って、またにっこり笑った。

 

川面の光が細い横顔に反射して笑顔に陰翳を与え、豊かな表情が生まれていた。空は曇っていたが、私は火照っていた。それは暖かい気温のためだけではなかっただろう。
こんな光景は、オヤジがオヤジになるかれこれ20年以上前にあったような気もするが、出会ったばかりでこうしているのは、夢のような時間だった。
ある感覚が、心の底で遠い稲妻thunderのように光った。それは結果はどうであれ、ある予感を含めたものに違いなかった。

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「ありがとうございます」
そう言ってコーヒーを口にしたが、照れてしまって続く言葉がない。

「だいぶ乗り慣れてますね」
出てきたのは、そんな、野暮ったくて気のきかない台詞だった。

「全然そんなことないんです。やっと乗ってるんですよ」
「かっこいいですね。若い女性が大きなバイク、それもVMAXに乗ってるなんで、とってもいいと思います」

「以前は、07モデルのSBに乗ってたんです。それでいちごさんのブログも知ってて・・・」

ブログを書いているのが、意外なところで役立ったようだった。

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「でも友達の間で、バイク乗ってるなんて、誰もいません。私は友だちみんなから変人扱いされてます」
「変人扱いされながら、何故バイクに?」
「悲しいことがあったんです。それがきっかけで・・・」
「悲しいこと・・・・・?」
「もう、いいんです。立ち直りました。去年、本屋で見たバイク雑誌で、上下黒の革つなぎで髪の長い女性がZZR1400乗ってるの見て、あ、これだ!って思って免許取ったんです。最初SB乗ってて、重かったけど、どうせ乗るなら凄いの乗ろうとか思ってVMAXにして。同時に、それまで着てたウェア着るのやめちゃっていつも上下黒ばかり・・・。でも男の人って、上下革つなぎで、身体の線がよく分かるのって大好きみたいですね。痛いぐらい視線感じることもありますよ。うふっheart02

 

 

話し始めると、彼女は次第に表情豊かに、饒舌になった。私のブログを見ていたと言うから、親近感があったのかもしれない。

 

 

続く・・・。                                                    

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