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2011年11月 4日 (金)

黄昏に響いたHM300

福島3ラインツーでおくさんたちの見送りを受けたあと、私は一人、磐越道を走った。
スピードメーターの針は真上から右上あたりを行き来し、センターラインは規則正しく後ろに流れていく。ヘルメットからは終始暴風のような風切り音がしているが、一人になった心情は静かで心細いものである。夕暮れも迫っている。
それでも昨日は見事な雲海を見ることができたし、夜の宴会も楽しいものであった。

しかしこの磐越道とは、このあと常磐道を走る者にとって、ひたすら東に向かうだけで、一向に目的地に近づかず、時間だけが過ぎていくような道である。
小雨が降ってきた。雨の様子を見ようかと、常磐道が北と南に分かれるジャンクション手前で、PAに入ることにした。ぼんやり入っていったのだが、私の目は1台のバイクに吸い寄せられた。そのすぐ脇に停めた。

それは、4本マフラーのCB750fourである。

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オーナーはあご紐を締めていたので、急いで話しかけた。

「こんにちは」と私。
「こんにちは。どこまで行かれたんですか?」
「磐梯吾妻スカイラインなどを・・・。 それより、いいバイクですね。K0ですか」
K0の証である角張ったサイドカバーを見ながら尋ねた。

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「いや、K1・・・」
オーナーは恥ずかしそうに答えた。
「K1にK0のをつけると、ほら、ここが開いちゃうんだよ。K1はキャップが内側にあるんだね」
見ると、確かにカバーとオイルキャップとの間には隙間があった。
「いつ頃買ったんですか」
「ずっと乗ってるから、40年前」
「40年 その間ずっと乗り続けていると」
「うん、そう
「凄いですね。その間、乗り換えることもなく」
「うん、回りからは手放せと言われたこともあるけど、こればかり乗ってきた。乗り換えたいと思ったこともない」
50代後半のオーナーは、ちょっと恥ずかしそうに言ったが、その底には誇りが感じられた。
「確かHM300っていうマフラーがあって、いい音がするそうですね」
「これ、そう」
「HM300ですか・・・・・。いやぁ、音聞いてみたいです」
「これはいい音だよね。HMってもう1種類あるけど、あれはバッフル抜いてもこの音にはならない」
「HM341ですよ」
「あ、それそれ。出口だけ広げても駄目なんだよ。内部構造が違うんだ」
「ホイールはコムスターですね」

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「これは前後とも、CB750Kのやつ」  ※注:DOHCのCB750Kのこと、Fの直前に発売された
「あっ、静かな音のする4本マフラー。K7とFⅡのあとですね」
「そうそう。K7とFⅡは、リアがディスクなので、つかないんだ」
「しかし、40年乗るとはすごいです」
「うん、今でも、他のバイクは考えられない。ホイールも、メーターもあちこちずいぶん変えたり修理した。手放せない。いいバイクだよ」
「これは手放してはいけませんよ」

オーナーが心底このバイクに惚れているというのが伝わってきた。
カウルというより風防も、ずっと昔からのものをガムテープで補修して使っている。シートもヘタっているが、いい味わいを出しているではないか。

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「いいですねぇ。一番欲しいバイクです」
「ネット探せば、70万ぐらいであるよ、きっと。フルレストアしたK0は高くて買えないけど、K1やK2をK0風にして乗っている人は多いね」
「そうですね」
「スピードだって、まだまだ出るんだ。その気になれば180だって出るし、150キロ巡航だってできる。第一壊れない」
「何キロ走ったんですか」
「40年で9万キロ、あまり乗れないからね」

 

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11月だから、日が沈むと肌寒くなった。湿気は空からあたりにまんべんなく降りてきたかのように漂い、曇り空の空気は、茜色でなく薄墨色に染まりはじめていた。

 

「これから東京ですか」
東京某所のナンバーがついていたので、そう尋ねると
「いや、今は近くに住んでいるから、あとちょっと」
「行く時間であれば、どうぞ、お気になさらず」

私はそう言った。話をしたいのはやまやまなのだが、実は、早くHM300の音を聞きたいのである。

それからもしばし、フロントディスクのこと、K0とK1との違いなどを語り、K1氏は行くことになった。K1をバックさせ、左手をステアリングヘッドあたりへ伸ばし(ここにメインスイッチがある)、セル1発。

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「ズオン」

黄昏に、HM300の咆哮が響きわたった。

この音である。
このバイクのエンジンがかかると それがアイドリングしているだけでも 周りの空気の質感を変えるほどの存在感がある。今、どんなにリッターバイクが増えようと、このバイクの存在感と音の迫力には到底及ばない。「CBナナハン」あるいは「ホンダ シービー セブンフィフティ」。

ベートーヴェンの英雄(エロイカ)交響曲が、それまで貴族の夜会BGMにしか過ぎなかった音楽を、人間の感情を表わす芸術の器として飛躍的発展を遂げさせたように、このCBナナハンから、その後の日本製バイクの世界制覇が始まった、と言ってよい。
CB750fourは、バイクの歴史におけるエロイカシンフォニーである。まさに革命であった。そして、1960年代の若者の生き方まで変えてしまった。

追記:こんな音です。

バイクをおりている間、街でCBを見かけるたび、何度この音に耳を澄ませたことか。しかし意外に、これがHM300だと聞いて、間近で音を聞いたのは、これが初めてだ。

 

そして彼は会釈をして、2,3度の空ぶかしのあと、4本マフラーから豪快な加速音を奏で、薄墨色の空気の中へ消えていった。あれが40年前のバイクかという加速で。
                                                                                                                                    

 

・・・・・・・・・・・・。
1週間近く経った今でも、あの加速音が耳に焼きついている。SBのツインマフラーも低い音がするが、4本のHM300の迫力とは比べるべくもない・・・。

 

 

HM300のCB750に乗って、峠やトンネルを走ったら、どんなに素敵なことだろう。

CB400fourのコピーをもじって

「おおナナハン、お前が好きだ

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コメント

 いちごさん、こんばんわ。


>若者の生き方まで変えてしまったバイク!
>周りの空気の質感を変えるほどの存在感!
>どんなにリッターバイクが増えようと、このバイクの存在感と音の 迫力には到底及ばない!

CB750fourへの熱い想いが伝わります。

先日、花泉さん兄弟のCB750fourと出逢い、2台の音に魂を揺さぶられました。

「CB750」この言葉の響き、いいですね!

投稿: ダン | 2011年11月 4日 (金) 22時11分

こんばんは!
お気に入りのバイクを長年乗り通す。

かっくいいですね!

見習わないとと思いつつ、それができそうにありません。
もしかしたら、まだお気に入りの一台に会っていないのかも
知れません。

近所のCB750は・・・なんなんだろうか?今度聞いてみます。

投稿: わら | 2011年11月 4日 (金) 22時49分

こんばんわ

40年とは凄いですね(゜д ゜)
タンクのニーグリップの痕とかCBとオーナーさんの歴史を感じます!!
注目すべきはヨシムラHONDAのステッカー!!
これは当然、当時物ですね!!
貴重なステッカーです( ̄∀ ̄)

私も今のCB1000SFをこのくらい乗れればイイのですが・・・
70歳近くなってあの巨体をとりまわせるのか・・・心配です(ーー;)

投稿: 230 | 2011年11月 4日 (金) 23時39分

ダンさん、おばんです。
このバイクの音は、別格ですね。「シービーナナハン」という響きもいいものです。
乗り換えたいぐらいです。

投稿: いちご | 2011年11月 5日 (土) 18時29分

わらさん、おばんです。
>お気に入りのバイクを長年乗り通す。
かっこいいですね。こだわりのある男! 素敵です。

>まだお気に入りの一台に会っていないのかも
どうなんでしょうね。難しいテーマです。
近所にCB750にお乗りの方がいるのですね。K0,K1,K2,K4・・・気になります。

投稿: いちご | 2011年11月 5日 (土) 18時31分

230さん、おばんです。
40年は凄いですよね。230さんの18年?も凄いです。

>注目すべきはヨシムラHONDAのステッカー!!
貴重ですね。私が知っているヨシムラは、SUZUKIですから。

>70歳近くなってあの巨体をとりまわせるのか・・・心配です(ーー
美ヶ原で、70ぐらいのじいさんがXJ1300乗ってるのを見たことがあります。見てて心配になりましたが・・・。

投稿: いちご | 2011年11月 5日 (土) 18時33分

こんばんわ

ホンダCB750four
オーナーさんと同年代の私には「あこがれ」です。
当時は高くてとても手が出ませんでした。

>若者の生き方まで変えてしまったバイク!
>周りの空気の質感を変えるほどの存在感!
>どんなにリッターバイクが増えようと、このバイクの存在感と音の 迫力には到底及ばない!・・・ダンさんコピーさせていただきました
このナレーションを「城達也さんのナレーション」で福島3ラインツーの雲海の写真と合わせたらきっとステキだと思います。

ナナハンと言う言葉を定着させたキングオブナナハンですね。

投稿: かもしか | 2011年11月 5日 (土) 21時53分

かもしかさん、こんにちは。
>当時は高くてとても手が出ませんでした。
K0は確か398,000円でしたね。ただし、よく比較される大卒初任給よりはかなり高額だったと何かで読んだことがあります。

>このナレーションを「城達也さんのナレーション」で福島3ラインツーの雲海の写真と合わせたら
いいですね。城さんは95年に亡くなってしまいました。
中学生の頃、ジェットストリームを、妙にオトナの世界だなぁ布団に入って聞き入っていました。
ミスターロンリーの音楽が子守唄のように・・・(笑)。

>ナナハンと言う言葉を定着させたキングオブナナハンですね。
その通りですね。賛同いただいて嬉しいです。

投稿: いちご | 2011年11月 6日 (日) 12時41分

こんばんわ。

「おおナナハン、お前が好きだ」

素敵なコピーですね(^^)。ヨンフォアの集合管と赤いタンクの写真が
オーバーラップします。
あの構図でK0の写真を撮って、このコピーを入れたいですね。

投稿: わらいぶくろ | 2011年11月 6日 (日) 21時37分

わらいぶくろさん、おばんです。
CB400fourは、免許制度の谷間に咲いた不運なバイクでした。

408ccのコピーは「おお400、お前は風だ」だったのが
398ccになって「おお400、お前が好きだ」とおとなしくなりました(笑)。
そりゃ「風だ」のほうが素敵ですが、ナナハンでは「好きだ」となりますね(爆)。

あのローアングル、ナナハンで見てみたいです。

投稿: いちご | 2011年11月 7日 (月) 18時02分

こんばんは。久しぶりに他人の書いたCB750の記事読みました。誰が書いていても、あの排気音は、「ズオン!」という表現になりますね?迫力のある排気音です。猫の顔の好きなのは、緩い登り坂を3速で引っ張った時の排気音とタコメーターの針の動きです。40年前の若者のアニキ達も走り去るこのCB750の排気音にしびれて憧れたのでしょう。一度所有して心が通い合ったら、手放しても、また欲しくなる二輪はそうそう無いでしょうが、CB750だけは違います。存在そのものが迫力であり、憧れであり、尊厳なのです。全く不思議な二輪車です。

投稿: 猫の顔 | 2014年1月19日 (日) 00時35分

>猫の顔さん
コメントありがとうございます。
>誰が書いていても、あの排気音は、「ズオン!」という表現になりますね
いや、実は、あの・・・この「ズオン」は猫の顔さんの表現をパクったものです(汗)。
いや実にシンプルかつ的確な表現だったものですから・・・。スンマセン。

緩い坂もいいでしょうが、峠の上りでコンクリート壁面に反射する音もいいでしょうね。

>存在そのものが迫力であり、憧れであり、尊厳なのです。全く不思議な二輪車です。
激しく同感です。CB650の次は再度CB750を所有してはいかがですか? 見に行きます。

投稿: いちご | 2014年1月19日 (日) 23時30分

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