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2012年1月21日 (土)

サエコからの電話

今日も、二日酔いで寝ていた。
昨夜はだいぶ飲んだ気がする。一次会ではビールbeerと日本酒bottleを飲み、二次会では焼酎の水割りとビールbeer、それにウイスキーも飲んだ。古い歌をカラオケで歌ったのも、女の子と話したのも覚えている。それから2kmの夜道を一人歩いてきた。服を脱ぎ、くたびれた雑巾のように布団の隙間に身を滑らせ、泥水のように寝た。しかし、あれほど楽しい時間を過ごして幸せな気分で床についたのに、この朝の気分の悪さはどうだろう。まるで、昨夜飲んだ酒が、寝ている間にことごとく鉛に変化して、澱(おり)のように身体の下側にたまっているようだ。頭は痛くannoy重く、動くと眩暈typhoonがする。でも、寝返りをしないと体重で身体の片側が痛くなってしまうので、朦朧とした意識で向きを変える。
喉が痛い。息が酒臭いのが分かる。寝る前に、蓋つきの水を枕元に用意しておいたのは、そのままになっている。飲むために起き上がるのも苦痛である。
何時間前か分からないが、子供が部活のために出て行ったようだ。それを玄関まで見送り、「気をつけてね」というかみさんの声も聞こえていた。でも起き上がれない。もう酒を飲むのはやめようか、少なくとも今日は飲まずにおこう・・・・・・。
朝、一度目が覚めたときにつけたテレビも、そのままついている。みのもんたの朝ズバも、とっくに終わってしまったらしい。

身体の上下も分からぬほどに、朝、酩酊しているとき、携帯が鳴った。見慣れぬ、長ったらしい番号だった。

Dscf7329

「はい・・・」
「いちごさん? お久しぶり」
「・・・」
「わたしよ、サエコです」

「・・・」
「サエコですよ」
「サエコ?」
頭は朦朧としていたが、すぐに分かった。私は1年前の冬の日を思いだした。
「わたしのこと、覚えていらっしゃる?」
「もちろん・・・・・」
それきり、言葉が続かなかった。第一、目の焦点が定まらないのだ。

 

「もしもし・・・・」
「はいはい、聞こえて ま す」
「酔ってるみたいですね」
「まぁ、ちょっと」
「日本では、もう、朝の10時ではありませんか」
「そうかな。でも日本ではって・・・君はどこにいるんだ?」
「シンガポールからです」
「シンガポール・・・ また、何で?」
「お仕事ですわ」
「お仕事って、君は何の仕事をしているのか」
「内緒よ」

私はそこで、ちょっと目が醒めた。用意しておいた水を一気に飲んで、再び、携帯を耳に当てた。
「ないしょ?」
「そうよ、ナイショ。うふふ」

Dscf7319

「まあいい、いや、俺から連絡したかったんだが、携帯に何度電話しても出なくてね・・」
「海外に出ているのが長かったので、すみません」
「あ、ところで、震災は大丈夫だったのか」
「あの時わたしは上海にいたの。だから」
「そうか、よかった」
「いちごさんが大丈夫なのも、知っていたわ。バイクにも乗っているわよね」
「なんで分かる」
「日本にいなくても、ブログは見られるのよ」
「そうか、それもそうだな。しかし、シンガポールに上海、忙しいんだね」
「ええ、でも震災があったでしょう。 ・・・まだ帰れないけど、夏には、帰国できると思うわ」
「夏か。長いな」
「そんなことないわ」
「そうかな」
「そうよ。それに、また会おうって約束したでしょう。5月と7月だったわね」
「そうだな・・でも震災があって、それどころではなかった」
「うん。だから今年は、行きたいの」

「・・・うん」
「まだ酔っているのね。仕方ない人だわ。それじゃ、また連絡します」
「ああ、ちょっと待て。何でシンガポールやあちこちに?」

Dscf7327

「いろいろとね」

聞きたいことはあったが、思いがけない答えが返ってくるのも嫌だったし、第一、会いたいというだけで十分だと思った。酔っていても、そういう部分は理解できた。

「じゃあ、また連絡します。待ってて」
「分かったよ」
「あまり飲まないで下さいね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、お元気で」

電話は、プツンという音を出して切れた。

私はまた寝た。日がすっかり高くなった頃に起き上がり酔いがさめて来ると、会話が夢の中のように思えた。
サエコ? 夏、バイクで? 電話の会話が夢ともうつつとも区別できなかった。
時計を見ると12時になろうとしていた。窓の外は、この時刻にしてはあまり明るくなかった。私は起き上がってリビングを通り、テラスに出た。心は夏に飛んでいたが、火照った体を冷たい風が吹き抜けた。
1月の関東地方は今年一番の冷え込みで、初雪が視界一面にちらついていた。

続く・・・

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