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2012年6月12日 (火)

虹色の風

Nさんは、年上のshine美人shineだった。
「だった」と書くと、今は美人でないように聞こえるが、そうではなく、昔の記憶にあるNさんshadowである。
齢は三十代中ごろ、ツンとしたところがなく穏やかで、天然のボケキャラ、皆に人気heart01があった。

「俺、Nさんならつきあってもいいな」
モテないくせに、口を尖らせ、得意げに言う若い奴もいた。

だがNさんには、あまり結婚願望はないらしい、そんな噂も聞いた。
理由は定かではない。
いつも、上品で静かな佇まいを見せていた。

Nさんとは顔を合わせる機会も多く、私がバイクに乗っていることも、話してはいた。
5月のある日、冗談交じりに言ってみた。

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「バイクに乗ってみませんか」

 

 

反応は予想したとおりだった。
「危ないから、いいわ」
「・・・バイクに乗れば、今まで感じたことのない、非日常を体験できますよ」
「ありがとう。それは、またその時ね」

絵に描いたような年上の反応だった。

 

が、半月ほどしたある日、Nさんが寄ってきて、小声で言った。
「わたし、バイクに乗ってみたい。いいかしら」
「いいですよ、うれしいです」
「どうしたらいい?」
「上下長袖、それからくるぶしの隠れる靴で来てください。ヘルメットと手袋は用意します」

 

約束の日になった。
Sと違い、NさんはGパンにGジャンを着て現れた。
Gジャンの衿を立てた姿は昔の西部劇movieに出てくる女優のようで、二十代のように若々しかった。

まず、つかまり方を説明した。
「振り落とされないよう、できるだけしがみついて」
「わかったわ」
「自分は荷物だと思うこと。左に傾けば左に、右に傾けば右に傾く。力を入れない」
「こうね」
さっそく、身体を傾けていた。
後ろに乗ると、ふわっと、女の香りがした。

「危ないから、もっと強く腕を回して」
「これぐらい?」
「だめ、もっと」
「こーれぐらい?」
「まあ、いいかな」
そうやって、美人を密着させた。

行くのは海でなく、山方面にした。
走り出してすぐ
「とっても気持ちいいわ」
そんな声が聞こえた。

最初なので10kmも走ればいいと思ったが、あれこれコースを考えているうち、40kmも離れたところへ来てしまった。
郊外の蕎麦屋で、お昼を食べることにした。向かい合って座った。

 

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「どうです? 怖くありませんか」
「ううん、大丈夫」
「カーブが怖いのでは?」
「最初に乗り方を教わったとおり、荷物だと思って乗っているわ」
「それは、いいことです」
「結構、信頼しているのよ」

話したところでは、以前結婚していたが、夫と別れて、今は一人暮らしをしているのだと言った。
それ以上は聞かなかった。

 

「そういえば、以前、奴に『Nさんならつきあってもいいheart01』って言われて、何て答えました?」
「やだわcoldsweats01、覚えてるの」
「あの時の、あいつの顔がおかしくて」
「わたしもおかしくて、笑ってしまったわ」
「いやだ、って言えばよかったのに」
「いくら嫌でも、そうはっきりとは言えないわ」
「なぜ今日は、乗ってみたいと?」
そう尋ねると、一瞬首をすくめて微笑み、身ぶり手ぶりを交えて話し出した。
「近所に、二十才ぐらいの若い男の子がいるの。今まで暗くておとなしかったのが、最近明るくなって。それで私が、どうしたのって聞いたら、バイクbicycleを買って、乗るのが楽しくて仕方ないんですって。見せてもらったら、ピカピカshineなのよ。バイクってとっても自由で、素敵な乗り物だと思ったの」
「へえ」
「でも、理由はもう1つあるのよ」
「?」
「何だと思う?」

 

Nさんは、腕組みをして上目づかいで見た。
「・・・・・」
「いちごさんとデートしてみたかったのheart01
「本当ですか」
「本当よ」
「・・・・・」
顔が赤面するlovelyのが分かった。
「あなたは、何を考えているか分からないくせに、面白いところがあるわ」
「たとえば?」
「さっき、わざとわたしを密着させたでしょう」
「いや、それは・・・」
笑ってごまかしたが、また赤面した。
「でも、わたしも、うれしかったわ」
これ以上の会話は、覚えていない。
それから近くの公園へ行き、並んで歩いた。
大きな池には水鳥がたくさんおり、鏡のように青空を写した水面は、彼らが泳ぐとたちまち波紋が広がった。

 

帰り道は峠を選び、上りをかなりのスピードで駆け上った。
最後に聞いてみた。
「どうでした?」
「ごぼう抜きの迫力が凄かったわ。ドキドキしちゃった」
「バイクってどんなものか分かりました?」
「ええ、もうすっかり慣れたわよ」
「調子いいですね」
2人で笑った。
帰りぎわ、私が1人でまたがってエンジンをかけたら、呼び止められた。
「今日は、誘ってくれて、ありがとう」
「いいえ、お安いご用です」
「また乗せてね」

 

だがそれは実現しなかった。
1ヶ月後、漫画「ハートカクテル」の台詞のように
「私は、この町を出ることにしたの」
とNさんは言った。
皆、残念がった。

 

送別会で、Nさんは頬を紅く染めて言った。
「いちごさんて、案外、素敵よ」
「案外ですか」
「そう、案外、ね」
二人でデートしたというささやかな秘密は、そこで消えた。
私はまだ、その時のNさんの頬の紅さを覚えている。

 

この話は、これで終わり。
Nさんは、私の脳裡に、大人の女性の魅力を淡く残し、虹色の風のように去っていった。
今、どこかで、バイクに乗っているかもしれない。 

 

夏の夕暮れ、空が茜色に染まると、道路沿いの水銀灯が輝きだす。
この曲からは、そんな風景に吹く風を感じる。
黄昏時にバイクで海へ行き、エンジンを止めたら、堤防でもなんでもいい、ゆるやかなカーブに向かって座ってみよう。

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そして、風に吹かれながら、この曲を聞いてみたいと思う。

松岡直也では「9月の風」とともに好きな曲である。

 

80年代の話。 もちろん脚色まじり。

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音楽にまつわる思い出話」カテゴリの記事

コメント

今度は年上ですかぁ。色々と経験がお有りで…
毎度引き込まれます。毎回作画は東本さんで、キリンあたりの年代のアナザーストーリーを読んでいるような(キリンなんとなく知ってる程度ですが)感覚になります。

昔、ホーネットの後ろに少し上のお姉さんを乗せて走った事を思い出しました。
かれこれ7年ほど前になるかな。
今じゃ俺の事なんてなかった事になってますけど。
フッ…

投稿: ヨウ | 2012年6月12日 (火) 23時58分

ほろ苦く、それでいてなんとも爽やかな余韻が残る文章ですね
こういう感情は暫く忘れていたかもしれません。

私達にとって80年代が輝いていた時代であったように
今を生きる若者達にとっては、それが今の年代と思います
今から10年先、20年先にその人たちが今を思い返すとき
きっと、みずみずしい物語として綴られることでしょう
何時の時代もそこに生きる人たちは輝きの季節の中にいる
そう思います。

投稿: 湘南ライダー | 2012年6月13日 (水) 19時19分

こんばんは。
SevenFiftyです。

脚色してもこんな話は出てきそうもない、わたしです。
先日書いたマッハⅢの話とか、先輩のグロリアを先輩とツレ(数人)とわたしとで一晩で屋根切ってオープンカーに仕立てた話とか、焼肉10人前喰ってラーメン屋でラーメン+餃子4人前喰ってからはじめて風俗に行ってとんでもない目に遭ったとか、バカばっかやっていました。
ナナハンライダーになりたての頃はロクな話がないですよ。
いちごさんのようなシチュエーションは夢の様な話です。

>松岡直也では「9月の風」とともに好きな曲である
まともなのは松岡直也のライブには何回か行っています。
Vocalの大空はるみ(タンタン)さんがカサノバファンを歌っていたのは良く覚えていますよ。

投稿: SevenFifty | 2012年6月13日 (水) 20時57分

こんばんは。 はい、読んでいるとその世界に吸い込まれてしまいます。
自分はこういう浮いた話はないのですが。。。(汗) でも当時、憧れと妄想はたくさんしておりましたので、そういう意味でもなんだか懐かしく感じます。

投稿: やんべ | 2012年6月14日 (木) 00時15分

思い出します~~~
そうそう・・・色々なことが有りまして、CBのリヤシートに跨ったのです。そして、二人の危機的な・・・事を、解決してくれたのでした。

その後、妻は普自二の免許をとりました。
でも、時々あの人の背中にしがみついて、走るのです、走りたいのです。

こんな夫婦もいますよ!!

投稿: CB1300の花? | 2012年6月14日 (木) 13時33分

素敵なショートストーリーですね。

80年代、片岡義男を思いだしました。
(久しぶりに引っ張り出して読み返してみたくなりました)

投稿: びん | 2012年6月14日 (木) 20時02分

ヨウ君、おばんです。
はい、年上ですが・・・脚色まじりですから(笑)。まともに読みませんよう(爆)。

>昔、ホーネットの後ろに少し上のお姉さんを乗せて走った事を思い出しました。
なんだ、やっぱり乗せてるのね。

>今じゃ俺の事なんてなかった事になってますけど。
今度会ったときに、お聞きしましょう。

投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時40分

湘南ライダーさん、コメントありがとうございます。

>ほろ苦く、それでいてなんとも爽やかな余韻が残る文章ですね
某所での湘南ライダーさんの文も、私は好きですよ。

>こういう感情は暫く忘れていたかもしれません。
私はしょっちゅう考えています(笑)。

>何時の時代もそこに生きる人たちは輝きの季節の中にいる
そのとおりだと思います。いつの時代でも、自分が生きた時代が一番いいと思うのでしょう。同時に、そういう社会であってほしいと思います。


投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時43分

SevenFiftyさん、おばんです。

>先輩のグロリアを先輩とツレ(数人)とわたしとで一晩で屋根切ってオープンカーに仕立てた話
これは、私も先輩から聞いたことがあります。車は屋根で支えてる要素もあり、シャシだけだとペナペナだとか。

>はじめて風俗に行ってとんでもない目に遭ったとか、バカばっかやっていました。
実は私、風俗って行ったことがありません。○○専門です(笑)。

>いちごさんのようなシチュエーションは夢の様な話です。
脚色してますので、実際は・・・(笑)。

ライブに行かれたというのは、以前も書かれてましたね。
私よりちょっと上の世代ですよね。

投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時47分

やんべさん、ありがとうございます。

>自分はこういう浮いた話はないのですが。。。(汗)
いや、そうでもないと拝察します。

>憧れと妄想はたくさんしておりましたので
今度、それを是非記事に。
昔の歌を聞くと、当時の背景も思い出しますよね。

投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時48分

CB1300の花?さん、コメントありがとうございます。

>二人の危機的な・・・事を、解決してくれたのでした。
我が家も危機的状況?ですが、かみさんは乗りません。

>その後、妻は普自二の免許をとりました。
かみさんは、普自二の教習を途中で放り投げました(爆)。

同じ体験を共有するのは大切なことですね!

投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時51分

びんさん、ありがとうございます。

>80年代、片岡義男を思いだしました。
>(久しぶりに引っ張り出して読み返してみたくなりました
独特の世界観がありますね。私も何冊か読みました。
今でも、たまに取り出して読んでいます。そのたびに発見があります。

投稿: いちご | 2012年6月14日 (木) 22時53分

いちごさんの、「奥様は」~~~そうですかぁ。

教習所の先生・・・うんうん。
私を教えてくれた先生、それはそれは、厳しくて、出来ない事は、2時間の教習時間、それだけを、繰り返し繰り返し~~~させられましたよ。
ムッと来ているのが、顔と態度でわかるんです。

実は、泣きました。悔しくて、悔しくて。

そして、追加の料金を、うん万円払って、
2009年11月に、免許を、抱きしめたのでした~~(^^)v

今の夢は、福島を走りたい。大切な知り合いが居るので、行って、一緒に走るのが、夢でなんです。

あの「おくさん」にも会ってみたいなぁ~~~と、九州で、考えてる、私も奥さん=おばちゃん・・・・なのです。

台風来てるし、雨だし、走れません・・・。

投稿: CB1300の花(ドライフラワァー!) | 2012年6月18日 (月) 14時37分

CB1300の花(ドライフラワァー!) さん、こんばんは。
九州在住の奥様だったわけですか。
前回のコメントで??な部分があったのですが、奥様と聞いて理解できました。

やまなみハイウェイなど、いいですね。
車で行ったときは、バイクで来たいと思いました。

これからも読んで下さいね。

投稿: いちご | 2012年6月18日 (月) 23時05分

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