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2012年7月 6日 (金)

Cool Night

学生時代の同期に、北海道出身のA君がいた。

JAZZが好きな男だった。特にビル・エバンスがいいのだと言った。
まじめで温厚で、他の学生と比べて大人びていたが、一方で、どこか冷めて厭世的なところがあった。
文集など何か書かせると、必ず死に関することを書いた。

「死にたいなぁ」
Aは、口癖のようによく言った。
2人で構内を歩いていて唐突に言うので、返答に困った。あまりにしばしば言うので、誰も本気にしなかった。

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しかし2年になって、私が趣味のサークルに熱中するようになると、自然とAとの交流は遠のいてしまった。

 

 

2年の夏休みが終わりかけた頃、久しぶりにAのアパートへ行ってみた。
そこは、普通の民家をアパートにしたような部屋で、玄関の木戸を開けてすぐ右にあるのがAの部屋だ。

その日も玄関を開け、靴をはいたまま引き戸をノックしてみた。だが返事はない。
戸を引いてみると、動いた。
いないのかなと思い、隙間から部屋を覗いてみると、中には何もなかった。私は驚いて戸を全開にした。見えたのは、がらんとした部屋の黄色い畳と、木製の窓枠の向こうにある青空だった。

 

(引越ししたのか。それにしても連絡ぐらいくれればいいのに)
と思いながら立っていると、向かいの部屋の住人が、気配を察して顔を出した。

「ここに、A君がいたはずですが、引越ししたんですか?」
「いや、引越しではないです・・・」
「荷物がないんですが」

 

 

 

 

しばしの沈黙のあと、住人は言った。

「・・・・・・ 死んだらしいです」

 

「死んだ・・・?」
「自殺だそうです」
「自殺?」
「・・・・・」
「何か知っていることがあれば、教えてくれませんか」
「北海道の支笏湖で、身を投げたそうです」
「いつですか」
「1週間ぐらい前です」

 

心臓がどきどきした。私は混乱した。
お礼を言い、他の友人のところへ回って聞いてみたが、Aが自殺したのは事実だった。
2週間ぐらいして、Aの母親が北海道からやってきた。
お別れ会の席で、母親は、小さい頃から世をはかなんでいた子供だと語った。

Aが何故命を絶ったか、理由は、誰も知らない。
このときから私は、人は誰にも理解されない部分を持つものだと思うようになった・・・。

 

Aは、同じ北海道出身の作家の小説をよく読んでいた。主人公が自殺する「阿寒に果つ」や「無影灯」は、彼に勧められて読んだものである。「無影灯」の主人公も、支笏湖で命を絶つ。底には木が多いため、死体は上がらないらしい。

同じ作家による、この「みずうみ紀行」にも支笏湖は出てくる。陰鬱な北国の湖と書かれている。

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それから約10年が経ち、私は初めて支笏湖を訪れた。
道東をめぐる旅で、レンタカーを借りて函館や小樽を回る予定だったが、どうしても、支笏湖には行きたかった。

よく晴れた4月の日で、レンタカーに乗って下り左コーナーを曲がったとき、支笏湖が姿を現した。思わず声が出た。その景色に圧倒された。

 

Img001

綺麗なのだが、蒼い水を湛えた大きな湖は、昔からずっとそこにあり、人間があとからやってきて勝手に名前をつけ観光地にした、という印象を受けた。

湖畔に行って手を出すと、水は透き通って、驚くほど冷たかった。
「Aよ、10年経ったが俺は来たぞ」と心で叫んだ。

 

 

この曲は、Aから借りたカセットテープに入っていた。聞くと、冷え冷えとした支笏湖の湖面に、月の光が反射する場面を思い浮かべる。

これは、ほとんど事実です。

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音楽にまつわる思い出話」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
自分は文章での表現がとても下手くそなので、このコメントでも上手に表現できませんが。。。
いちごさんの記事を読んで、事実を、自分が伝えたい事実として表現するのには、とても能力が必要であるなと感じました。たとえ、自分が同じ体験をしていても、この様に人を引き付けて、その人が正確にイメージできような表現はきません。(汗) 
とても引き込まれ、こころに響く、そういう記事でした。(今回だけでなく、いつも引き込まれます。)

あと、「人は誰にも理解されない部分を持つもの」は、とても共感しました。

投稿: やんべ | 2012年7月 7日 (土) 00時26分

こんにちは。
相変わらずいちごさん、思い出深い話が好きなんですね。
いちごさんの優れた才能は、きっといろんな場面で発揮されてるのでしょうね。
私は、同性でありながら、ますますいちごさんに魅せられてます(^^;
昔、わたしは学生時代に先生から印象的な言葉をいただきました。
それは、「法律に触れないかぎり、なんでもいいから一番になれ!」
それは勉強でなく、個性を伸ばしなさい。と言う意味合いでした。当時はそんな素敵な先生が、結構いましたよね。
今時には、絶対にいない先生でした。
救われた自分が居ましたね。

投稿: 風まかせ | 2012年7月 7日 (土) 12時54分

一時期、死というのが、終わりではなく、
始まりであると思える時期がありました。
こんな世界より、死語の世界あこがれてた?(^^;)
来週、北海道へ行ってきます。
支笏湖もいけるかも?

投稿: おくさん | 2012年7月 7日 (土) 18時07分

やんべさん、ありがとうございます。
ちと褒めすぎのような気もしますが(笑)。

>「人は誰にも理解されない部分を持つもの」は、とても共感しました。
これは本当にそう思いますね。最近その感を強くしています。

投稿: いちご | 2012年7月 7日 (土) 20時15分

風まかせさん、ありがとうございます。

>思い出深い話が好きなんですね。
そろそろネタ切れです(笑)。あとは妄想ばっかりの記事かな(爆)。

>私は、同性でありながら、ますますいちごさんに魅せられてます(^^;
いやいや、実物の私は、口の悪いただのエ○オヤジですから、あまり幻想をもたれませんよう(笑)。

>「法律に触れないかぎり、なんでもいいから一番になれ!」
>それは勉強でなく、個性を伸ばしなさい。と言う意味合いでした。
>当時はそんな素敵な先生が、結構いましたよね。
確かにそう思います。いい先生ですね。
今は体罰は禁止ですが、生徒のことを真に思ってぶん殴った先生のほうが、記憶にはあります。

>救われた自分が居ましたね。
続きは、お会いしたときにお聞きしましょう。

投稿: いちご | 2012年7月 7日 (土) 20時19分

おくさん、こんばんは。

>一時期、死というのが、終わりではなく、
>始まりであると思える時期がありました。
これも、あとで続きを聞きたいような(笑)。

>こんな世界より、死後の世界あこがれてた?(^^;)
個人的には、死後の世界はないかなと。

>来週、北海道へ行ってきます。
なんともうらやましい! 来週ですか。バイクでは行ったことありません。

>支笏湖もいけるかも?
とても綺麗な湖で、お勧めです。
この本には、「支笏湖ほど、北国の静謐と憂愁をあらわしている湖はない」とあります。
ちょっと怖いぐらいの感じもありますね。

投稿: いちご | 2012年7月 7日 (土) 20時23分

つい先日
以前 お世話になった「大工」さんが亡くなったと友人の塗装屋から聞いた。
聴けば「子供の借財が原因で・・・自暴自棄になっての・・自殺」
「何も 死ぬことは無かったろうに」と
仲間と 情けなくて・・・何故か非常に悔しくて
今日、友人達とお墓参りに行きました。

どんなことがあっても 自ら命を絶つようなことはあってはならないと思います。

友人のご冥福をお祈り申し上げます。

支笏湖の青さがなんとも言いがたいですね。

投稿: かもしか | 2012年7月 8日 (日) 16時55分

かもしかさん、おばんです。
大工さん、自暴自棄で自殺ですか。
自殺ばかりはやりきれませんね。本人にしか分からない苦悩があったのでしょうが。

>どんなことがあっても 自ら命を絶つようなことはあってはならないと思います。
そう思います。

>支笏湖の青さがなんとも言いがたいですね
景色は悲しいほどに綺麗で、水は冷たく透き通っていました。
また行きたいです。

投稿: いちご | 2012年7月 9日 (月) 19時33分

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