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2012年7月 4日 (水)

心みだれて

Mの友人に、K子がいた。自分は背が低くて、太っているのが悩みなのだと語った。

「○さんはいいわぁ。美人でスタイルがよくて。それにひきかえ、わたしは、背は低いしデブだし家は貧乏だし、馬鹿だし、いいとこない。彼氏なんてできないわ・・・」
いつも、そう嘆いていた。

 

「そのうち、白馬に乗った王子様が現れるよ」
私は言った。そう言うしかなかった。

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そしてKは、彼氏ができたら、遊園地に行くのが夢だと語った。

 

 

ある日、Kは一人で私のアパートに来た。
ひとしきり嘆き節を語ると、Kは言った。

「いちごさん、わたしのこと、どう思います?」
「どうって、いいんじゃないの」
「本当ですか」
「うん」
「だったら、遊園地に連れてってくれませんか」
「俺はおまえの彼氏じゃないぞ」
「だめですか」
「だめ」
「それなら、お食事でも行きませんか」
「おまえのおごりなら、行ってやってもいいけど」
「わたしが払うんですか」
「誘ったじゃないか」
「それはそうだけど・・・」
「そのうち、本当に白馬の王子様がやって来るから。あまり焦らないことだよ」
「王子様なんて、いるわけないわ。いい加減なこと言わないで」

最後には、半分怒りながら部屋を出て行った。Kを見たのは、それが最後である。

 

まもなく、Kが自傷行為をして、救急搬送されたと聞いた。仕事や家庭環境など、何もかも嫌になったらしい。
そういう時は、若くてもそうでなくても、人生のどこかで、多くの人に訪れるような気がする。

 

 

3箇月後、私はアパートを出て、実家に戻った。
玄関を出たところにはCB750Fが野ざらしで止めてあり、もう何ヶ月も乗っていなかった。
1週間前にエンジンをかけた時には、2気筒が死んでいて、車のバッテリーから電気をひいてやっと復活した。暖かい春の日だったが、1メートルも走らず、売ってしまおうかと考えた。
Fを見ながら、
(お前もなあ、こんなに埃かぶってしまってかわいそうだよな。大事にしてくれる次のオーナーがいるかもしれないから、俺の元を離れたほうがよさそうだよ)
と考えていたら、家の中から母親の声がした。
電話だという。
受話器を耳に当てた。

 

「もしもし、いちごさん?」
「はい、いちごです」
「わたし、Kです、うふふ」
「おう、どうした?」
「お久しぶりです。ちょっと報告がありまして~」
Kの声は、明るく、うわずっていた。でも彼女が何故、今頃になって電話をしてきたのか、こんなに明るい声を出すのか、私には理解できなかった。
それは、33+1/3回転のレコードを45回転でかけたほどの開きがあった(昭和的発想)。

 

「報告って何だ?  転職か、引越しか」
「何だと思います?」
「さあ、想像つかんね・・・」

「わたしね、わたし・・・結婚するんです」
「えええ! そんな馬鹿な」
「本当でーす」
「だってお前、ほんの3ヶ月前・・・・」
「そんなこともありましたけど、女って、身変わりが早いのよ」
「早いって、早すぎるわ。あんなに嘆いていたくせに・・・」
「えへへ」
「白馬の王子様か、どうだ、俺の言ったことは本当だろう」
「はい、今はとても幸せです」
「どこで出会った? 遊園地はもう行ったか?」

Kは、嬉しそうに今までのことを話した。あのことも話し、全て受け入れてくれたそうだ。

 

「・・・そう、それはよかった。おめでとう」


 

 

6月下旬、1枚の葉書が届いた。
そこには、白いウェディングドレスを着て、にっこりと微笑むKの姿があった。
隣には、白いタキシードに身を包んだ、長身でハンサムな新郎。

 

「June Brideか・・・」
私の心は乱れてしまった。女心は分からない。

人間万事塞翁が馬、禍福は糾える縄の如し、ちょっと違うか。

 

これはなにより、歌っている小林明子が素晴らしい。「恋におちて」のほうが有名だが、曲の出来栄え、歌唱力、声質、彼女のいいところを万遍なく引き出していると思う。
それに目をつけたリチャード・カーペンターがプロデュースしたCDもあるらしい。

 

脚色交じりですから、丸ごと本気にしないで下さいね。
ただしあの頃、ドラマ「金妻」と同じように生きていた人は、身近に何人もいた。そんな時代の曲。

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音楽にまつわる思い出話」カテゴリの記事

コメント

マイワールドいっぱいですね、いちごさん文才あります。
ごぶさたしております。
転勤で春より北陸に来ております。
もちろん相棒も一緒に初夏の北陸を楽しんでおります。

投稿: チョコ | 2012年7月 4日 (水) 19時31分

小林明子のアルバム、夜中に研究室で卒論をやっている時に良く聴きました。
思い出のある曲です。

投稿: utunosamu | 2012年7月 4日 (水) 20時13分

チョコさん、お久しぶりです。
北陸ですか、くねくね道がたくさんありそうですね。
でも、慣れない土地で、ご苦労さまです。

8月最後の土日で石川県あたり行く予定です。会社関係ですが(笑)。

投稿: いちご | 2012年7月 5日 (木) 23時00分

utunosamuさん、おばんです。
小林明子、やはり聞いていましたか。
この曲には高貴な思い出が多いです(笑)。

投稿: いちご | 2012年7月 5日 (木) 23時04分

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