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2013年2月 7日 (木)

幽霊の正体見たり

昔。

ある4階建てのビルで仕事をしていた。そのビルは、全フロアともその会社である。

年末の締め切り間近で、1人帰り、2人帰り、とうとう最後の1人になってしまった。私の席は玄関がよく見える位置にあったから、誰か来ればすぐ気づいたし、その日も、2階から上にはもう人はいないのを知っていた。
最後の1人が帰ったあと、防犯上玄関の鍵を閉め、私は外からあまり見えないようにして1人続けた。

30分ぐらいして電話が鳴った。

Telephone

 

それは友人からで、歩いて5分の駅ビルで酒を飲む約束があり、まだかと催促するものだった。約束の時刻は過ぎていた。
「あと30分ぐらい」

私はそう言って電話を切った。

バブル経済で景気のいい時代だった。
普段、四角い窓の外にはモノクロのビルしか見えないのに、この季節だけは赤や緑、黄色のイルミネーションが瞬いていた。そんなクリスマス前の浮ついた雰囲気の街を、たくさんの人が歩いていた。
私は、ガランとした建物で、1人薄暗い机で仕事をしているのが馬鹿らしくなり、切り上げることにした。

 

(さて帰るか)
2階から上に人はいないはずで、本来最後の人は全フロアを見回ることになっているのだが、この時はそれを省き、1階の電気を消して出ることにした。
あたりはいっぺんに暗くなった。外に灯りが見えても、電気を全部消すと、ビル内は意外に暗いものである。
次にセキュリティのロックをかけて、確か30秒以内だったかに急いで外に出た。

 

(ふう)
と息をついて歩き出し、何気なく後ろを振り返ってみた。
すると、最上階の一角に灯りがついていた。

(やっちまったか)
蛍光灯の1本ぐらいどうということはないが、それが蛍光灯の灯りかどうか、見上げた限りでははっきりしなかった。火事にでもなったら大変なので、私はそこまで行くことにした。

鍵を開けて中へ入り、後ろ手でロックし、急いで警備会社に電話をかけた。
「○○社のいちごです。忘れ物があって、一度解除しました」
携帯電話なんてない時代、ロックを解除したときはそんなふうに急いで電話をしていた。今はどうだか知らない。

2階から上は、ずっと人がいないために寒かった。寒くて鳥肌が立った。誰もいないはずだが、いたら仰天するだろう。
階段は非常灯があるため、薄暗くても歩けないことはなかった。

Stairs

靴音が壁に響くのを聞きながら、4階まで上がって明かりを確かめると、それはトイレの電気に過ぎなかった。ドアが開けっ放しであるために、ぼんやりと一角を照らしていた。

 

(なんだ、これだけか)
きっちり「パッチン」とスイッチを押して消し、私は来た階段を下りはじめた。霊感はないのだが、寒さのせいかどうか、また鳥肌が立った。
2階まで行くと、ちょっと暖かくなった。

(もうちょっとで1階だ)
 

 

 

慌てないように、暗い階段を歩いていくと、だが、1階の隅にそいつはいた。

 

 

 

暗い玄関ホールの隅に、黒っぽい服を着て、首をだらんと下げた男だか女だかが1人、無言で立っていた。ぶら下がっているようにも見えた。

 

 

 

 

Pict0022

 

 

心臓がきゅんとした。本当にびっくりしたとき、心臓が縮むようなことは今までに何度かあった気がするが、これもそのうちの1回である。

 

(俺はさっき後ろ手でロックしたはず。なのに何故ここにいる??)

しかし奴は動かず、よく見てみると、足は1本で、それは植木鉢に近い形をしていた。だらんと下がっていた頭は、垂れ下がった枝にも見えた。

 

(ああ、お前だったか。しかし、前からここにいたっけ・・・?)
と思うと、可笑しくなってきた。それは巨大な鉢植えなのだった。

 

これは、直後の酒の席で笑い話となるのだが、怖い怖いという気持ちがあると、枯れ尾花でも幽霊に見えるのかしら、と思うのだ。
と、そんなオチの話。
何しろ私には霊感がないため、「ほんもの」をみた経験がないのです。でも、ほんものを見たという話は、好きですが聞きたくありません(笑)。

なお、写真はイメージです。

 

映画「ハンニバル」より 「Vide Cor Meum」

この、グロさと気品が巧みに同居した作風が好き。

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音楽にまつわる思い出話」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
SevenFiftyです。

この歳になってもオバケの類はどうも苦手です。
夜中にトイレに行くときにネコが急にバタバタと駆け出すとドキッとしますよ。
20年以上ネコを飼っている、おっさんが情けないです。

投稿: | 2013年2月 7日 (木) 21時47分

おはようございます。
そうでしたか。ほんとに見たのかと思いましたね。
私は、高校生のときに、帰り際の夜空にオレンジ色に光るUFOを見ました。
未確認飛行物体です。確かに飛んでました。
でもあとのテレビのニュースで数人目撃してたようです。
人工衛星の破片のようでした。ちょっと残念でした(^^)
でも、いちごさんの文章はたしかに引き付けられますよ!
私も見習って頑張りますです。

投稿: 風まかせ | 2013年2月 8日 (金) 05時43分

朝読んでて背筋がゾクゾクっと・・・(^_^;)
私は墓地横の公園で犬を散歩しててスッと立ちすくむ少女を見てしまい、家まで猛ダッシュ!!

翌日行ってみるとそこには昔ながらのごみ箱が置いてありましたが・・・(笑)

こちらはリアルな話ですが、職場には老婆がいるようです。聞いてからは遅くまで会社に居ることはなくなりましたが・・・(^_^;)

投稿: katsu | 2013年2月 8日 (金) 17時56分

SevenFiftyさん、コメントありがとうございます。
やはり怖いですか。私だけじゃなくて安心しました(笑)。
猫が走るとびっくりしますね。うちの猫は夜おとなしいです。

投稿: いちご | 2013年2月10日 (日) 13時03分

風まかせさんコメントありがとうございます。
UFOでなくて残念でした。
私もそれらしいものは見たことありますが、真偽のほどは・・・。

人工衛星はたまに間違われるみたいですね。

投稿: いちご | 2013年2月10日 (日) 13時05分

katsuさん、コメントありがとうございます。

>スッと立ちすくむ少女を見てしまい、家まで猛ダッシュ!!
やはり怖いのでしたか。安心しました(笑)。
>昔ながらのごみ箱が置いてありましたが・・・(笑)
でも少女はリアル少女だったのでしょうか。

>職場には老婆がいるようです
これは怖いですね。あまり遅くまでいるとそのうちバッタリ・・・。

投稿: いちご | 2013年2月10日 (日) 13時37分

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