「戦艦武蔵」読書感想文
最近、作家吉村昭氏の著作に凝っているわけですが、「羆嵐」「高熱隧道」「関東大震災」「三陸海岸大津波」に続いて、「戦艦武蔵」を読み終えました。
最初は、盛り上がりに欠けると感じましたが、中盤から、想像を絶した規模の戦艦建造の苦労、19時間にも及ぶ進水準備、実戦に投入されるあたりは迫真の描写で、一気に読んでしまいました。
画像はWebから拝借しました。
解説に、面白いことが書いてありました。
「吉村昭氏の作品の根底にある人間観、それは人間というものは何をしでかすか分からないということへの暗い好奇心と・・・」
『暗い好奇心』 好きですねぇ、こういう言葉。
またこうあります。
「『戦艦武蔵』は、極端な言い方をすれば、一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の”集団自殺”の物語である」
確かに、戦争というのは大いなる狂気です。しかし
「戦争はいけません」 これは小学生でも分かります。
「人を殺してはいけません」 幼稚園生でも分かります。
しかるに、何故人間はそんな簡単な命題に反して、愚行を繰り返してきたか
それは、社会的存在としての人間が持つ飽くなき欲望であり、他者を蹂躙してでも己の欲望を満たそうとする業(ごう)の深さによるものなのでしょう。領土問題や原発も、根は同じ。
そんなことを考えさせられました。
吉村文学の真髄とは、
丹念に調べ上げた事実を通して見えてくる 『人間とは、一体、何ものか』 ということのようです。
次は、4回の脱獄をした実話に基づく「破獄」に取り組みます。
まもなく終戦記念日がやってきます。
戦争における個人の狂気を書いたものは、大岡昇平氏の「野火」、集団の狂気を書いたものは、この吉村明氏の「戦艦武蔵」によく出ていると思います。
| 固定リンク | 0
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 東山魁夷【唐招提寺御影堂障壁画展】を見てきました(2021.10.09)
- 小説「ゼロの焦点」に描かれた北陸(2020.12.30)
- 最近買った本とCD(2020.07.31)
- 野麦峠が止まらない(2020.03.13)
- 野麦峠に行きたい!(2020.03.01)
コメント
昨年の秋に古本屋で「大人買い」した本の中の1冊だったかしら?
戦争のことは分からないけど、「集団自殺の物語」は余りにも切ない想いになる。
専門書ばかりでしばらく小説を読んではいないけれど、
以前紹介されていた、「阿寒に果つ」は読んでみたいと思ったわ。
交響曲の大全集を聞き倒したり(?)読書に勤しんだり・・・
いちごさんって、優雅に「大人の時間」を楽しんでいるのね
いちごさんのブログを見ていると知らなかった本や音楽にも「好奇心」が湧いてくる・・・
知らないことを知るってとても大事なことだし、楽しいし、勉強になるもの。
私も優雅な時間を過ごせるように、「今」を大切にしたいわ
投稿: サエコ | 2013年8月 2日 (金) 15時31分
>サエコさん
>昨年の秋に古本屋で「大人買い」した本の中の1冊だったかしら?
ありがとう、読んでくれてるのね。
>「阿寒に果つ」は読んでみたいと思ったわ。
「阿寒に果つ」は、途中からだらけてきます。この作家のお勧めは、「無影灯」と「遠き落日」です。
>交響曲の大全集を聞き倒したり
いいえ、弦楽四重奏曲全集です(笑)。
>いちごさんのブログを見ていると知らなかった本や音楽にも「好奇心」が湧いてくる・・・
おや、聡明な君のことだから、てっきり
「わたしはアルバン・ベルク四重奏団の音色が好き」とか
「チャイコフスキーの弦楽四重奏曲がいいわ」
と返ってくるかと思っていたが(汗)。
ともあれ、もうちょっとで再会できるかな(謎・・・)。
投稿: いちご | 2013年8月 3日 (土) 18時54分