小説「漂流」読後感
まずは、鼻血に関して、何人かの方からメールその他いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
さて、吉村昭の小説「漂流」を読み終えました。とてもいい小説でした。
あらすじは、こんな感じです。
時は江戸時代。米その他の積荷と共に出航した小型の木造船は、不運にも時化に遭って船のかなりの部分を破壊され、絶海の火山島に漂着する。水も湧かない、穀物も育たない、木もろくに生えていない無人島で、主人公の長平は、仲間が次々と倒れたなか、ただ一人生還する。その12年に及ぶ生存の秘密と、想像を絶した生きざまは・・・?
この小説のテーマは、2つあると思います。全ての小説にはテーマがあります。それがないのは、単なる作文に過ぎません。
1つ目は、長平に続いて無人島に漂着した船乗りが嘆く様子を見て、長平が感じた様子にあります。
こういう記述が何度か出てきます。
「絶海の孤島に流れ着き、本土への生還は絶望的だということを知って、彼らは嘆いている。思い切り泣け。泣き、嘆き、悲嘆に暮れるがいい。どんなに悲しんでも泣いても、どうにもならない。極限状態において、最終的に頼れるのは自分だけなのだ」
自殺を何度も考えたあげく、踏みとどまった長平が最終的に到達した心境が、これでした。そこまで達観するのは並大抵のことではないと思いますが、絶望的状況に置かれた人の心の深淵を見る気がします。
そして2つ目は、人智の限りを尽くして、遂に本土に生還したこと。
つまり、絶望的な状況にありながらも、最大限の叡智を発揮した、人間の素晴らしさです。
生きる勇気が沸いてくるような、お勧めの小説です。遠い昔ですが、本当にあった話です。
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