野麦峠に行きたい!
とタイトルに書いたが、野麦峠には2回行っている。1回目は2016年9月3日。2回目は2018年7月30日。
なぜまた行きたくなったのかというと、この動画を見て、たちまち野麦峠の歴史と、工女たちに強く惹かれたからだ。
ラジオドラマ「あゝ野麦峠」
このドラマは、小説に忠実に作られている。後半には制作者の解説もあるので、気になる方は是非ご視聴を。
特に、42:26部分、サイレンが鳴って「終わったよ、終わったよ、終わったんだよ~!」と叫ぶ場面が圧巻である。これは、年末に生糸工場のラインが止まり、いよいよ故郷に帰れるというとき、工女たちが喜びに満ちた歓声をあげる場面。彼女たちの顔が浮かぶようである。もちろん帰路には苛烈を極める峠越えがある。命がけである。しかし、それを差し引いてもなお、1年間、生糸工場で稼いだお金を持って故郷に帰れるという喜び。声優か女優か分からないが、この部分では、そうした感情が、実によく出ていると思うのだ。
ドラマでは、「その晩のうちに塩尻峠に向かったもんでっせ」と老婆が語る。諏訪から飛騨までは幾つもの峠を越える。野麦峠は、その途中の一部、そして最難所であったのだ。
冒頭など、男性と老婆の声がナレーションで入るが、これは小説の一部分である。
すぐにブックオフで文庫本を買ってきた。
この小説の優れている点は、筆者の山本茂実氏が10年以上にわたって飛騨の数百人の老婆たちから聞き取り調査を行い、野麦峠を実際に歩き、膨大な資料をもとに作られた、記録文学であることだ。そして幸いなことに、この小説は老婆たちが存命であるギリギリのタイミングで書かれた。筆者が続編を書いたとき、彼女たちはほとんど亡くなってしまったらしい。
殖産興業、富国強兵の名のもとに明治政府は国威発揚を掲げたのであるが、日本が外貨を稼いだ中心は生糸産業であり、それを支えていたのは峠を徒歩で越えた幾千、幾万の工女だったのである。しかし恥ずかしながら、私はそれをよく知らなかった。
こうした名もなき工女たちに光を当てた、この小説は見事と言うほかない。買ったのは古本だが、60刷という堂々たるロングセラーである。
「あゝ野麦峠」というと、このブログを見ている全国20人の読者の方には、映画を思いつく方もいるであろう。しかしあの映画は、工女たちの悲惨な面ばかり強調していて、端的に言えば小説を歪曲しているようである。しかも映画では20代の女優たちが主役であるが、本物の工女たちは10代前半であった。
したがって、小説の表紙にもある言葉、「哀史」とだけ捉えるのは正確ではない。
なぜなら、筆者が驚くべき事実としてあげているように、
「工女の仕事はきつかったが、それでも飛騨で農業をやるよりはるかにましだった」
「飛騨の水呑百姓が稼ぐゼニより工女1人の収入のほうが多かった」
からである。工女たちは、そうした時代背景の中、懸命に生きた。
エアコンも防寒着も発達した現代、野麦峠は冬季には通行止めとなる。綿入り袢纏や草鞋しかなかった10代の少女たちが、しもやけになり、足を氷で切り雪を赤く染め、厳冬の吹雪の峠を歩いて越えていったこととは、何たる相違であろうか。
ということで、工女たちが実際に歩いた野麦街道を、自分の目で見に行き、歩いてみたいと思う。できれば残っている宿なども訪ねる。
あゝ、今の私は早く野麦峠に行きたくて仕方がない。飛んでいきたいぐらいである。しかし冬季通行止めのため、実際に行けるのは5月以降だから、それまでに知識を蓄えておこう。
これは富山にいる間にしか行けない。きっと社会科見学のようなまったりツーになる。^^;
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コメント
野麦峠いいですね👍☺️
通行止めがとれたら是非行きましょう👍
楽しみにしてます☺️
投稿: かき | 2020年3月 2日 (月) 22時33分
>かきさん
まったりゆったりあちこち見学ツーですよ。
止まったり、歩いたり、眺めたり。
かきさんには退屈しちゃうかも。
投稿: いちご | 2020年3月 3日 (火) 23時45分
私も野麦峠、数回行きました。
時代は令和になりましたが、
私世代にはちょっと昔の話、
とても他人事とは思えません。
峠だけではなく、
飛騨古川町にある歌碑(本光寺内)。
http://t2ota.blog56.fc2.com/blog-entry-1385.html
モデルとなった女性のお墓。
http://t2ota.blog56.fc2.com/blog-entry-2178.html
ぜひお尋ねください。
投稿: 片田舎動物病院 | 2020年3月 6日 (金) 08時39分
>片田舎動物病院さん
貴重な情報をありがとうございます。
歌碑、政井みねさんのお墓ともに一度行ってみたいと思います。
私も世代は近いので、人ごととは思えません。
投稿: いちご | 2020年3月 6日 (金) 23時56分