サエコの章

VMAXに乗るスレンダー美女サエコの話

2012年1月21日 (土)

サエコからの電話

今日も、二日酔いで寝ていた。
昨夜はだいぶ飲んだ気がする。一次会ではビールと日本酒を飲み、二次会では焼酎の水割りとビール、それにウイスキーも飲んだ。古い歌をカラオケで歌ったのも、女の子と話したのも覚えている。それから2kmの夜道を一人歩いてきた。服を脱ぎ、くたびれた雑巾のように布団の隙間に身を滑らせ、泥水のように寝た。しかし、あれほど楽しい時間を過ごして幸せな気分で床についたのに、この朝の気分の悪さはどうだろう。まるで、昨夜飲んだ酒が、寝ている間にことごとく鉛に変化して、澱(おり)のように身体の下側にたまっているようだ。頭は痛く重く、動くと眩暈がする。でも、寝返りをしないと体重で身体の片側が痛くなってしまうので、朦朧とした意識で向きを変える。
喉が痛い。息が酒臭いのが分かる。寝る前に、蓋つきの水を枕元に用意しておいたのは、そのままになっている。飲むために起き上がるのも苦痛である。
何時間前か分からないが、子供が部活のために出て行ったようだ。それを玄関まで見送り、「気をつけてね」というかみさんの声も聞こえていた。でも起き上がれない。もう酒を飲むのはやめようか、少なくとも今日は飲まずにおこう・・・・・・。
朝、一度目が覚めたときにつけたテレビも、そのままついている。みのもんたの朝ズバも、とっくに終わってしまったらしい。

身体の上下も分からぬほどに、朝、酩酊しているとき、携帯が鳴った。見慣れぬ、長ったらしい番号だった。

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「はい・・・」
「いちごさん? お久しぶり」
「・・・」
「わたしよ、サエコです」

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2011年1月14日 (金)

続・VMAXの女

そこにある店はカフェであるわけもなく、駐車場にはベンチすらなかった。話を続けたいと思っても、移動する時間が惜しかったから、缶コーヒーを片手に立ったまま話を続けた。初めて会ったにもかかわらず、彼女の表情やしぐさは、お互いに話すこと、話すべきことがもっとあることを十分に思わせたが、西日は傾き、冷たい風が吹き始めた。
彼女はどこへ帰るのかはまだ分からない。しかし、あたりは既に、それを考慮すべき時刻と気温になっていた。

そして視線が痛い・・・と言われた以上、私は彼女を正視できなくなってしまった。それでも彼女は出るべきところは出て、細くあるべき部分は細く、バランスが取れているのを、私は最初から見抜いていた。あまりに理想的な風貌は、男からすると意外に直視しにくいものである。男はその背景に、女性とはまた別のものを見るからだ。

「君はどっちに帰る?」
私は地面を見ながら言った。そうせよ!と言われているかのように。
「私は常磐道を南に下るの」
「じゃあ、高速に近いところまで行こうか」
「分かったわ」

そうして、今度は彼女を先に行かせた。想像したとおりの運転だった。細身の体を上手に移動させ、曲線をくねらせながら彼女は走った。V4のエンジン音は時に高く、時に低い音を発し、2台はリズミカルにコーナーを抜けていった。私の中で、「アール・ヌーヴォー」という言葉が何度か浮かんでは、消えた。それはまるでワルツのようで、私にペースを合わせていたかどうかは定かではないが、2台一緒に高速に近いところまで走り、止まった。

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そして再び、いろんなことを話した。

「ところで、君の名を聞いていなかった」

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2011年1月12日 (水)

VMAXの女

1月、睦月。寒い日が続いている。
空を見上げれば冬特有の蒼い色が一面に広がり、上空の雲は関東平野の冷たい西風に乗って、毎日形を変えながら、東へ動いてゆく。
それでも今朝は、狭い庭に降り立ったら珍しく暖かかった。庭の梅の蕾はまだ小さいが、冷たい中に春を思わせる風を感じたので、重いSBを引っ張り出して走ってみようと思った。あてもなかったから、1時間も走って帰ろうと思っていた。
そんな何の変哲もない、冬の一日で終わるはずだった・・・。

でもそうは終わらなかった。道すがら、街中の信号で止まっていたら、後ろから1台のバイクが近づいてきた。段々大きくなってくると、それは新型VMAXであった。実車を見るのは2回目だろうか。

やがて彼は横に止まった。視線を向けると、その圧倒的な存在感に圧倒された。黒光りする巨大な車体、造形の妙、見事なバイクである。

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がよく見れば、それは若い女であった。
黒い革の上下に黒いヘルメット、スモークシールド。しかし人は対象物を、素材ではなく形で認識する。曲線で構成された全体の細いシルエットと、肩にかかる長い茶髪は、どこから見てもそれが女であることを示していた。信号は赤だったから、彼女はシールドを上げ、ミラーで化粧を気にし始めた。見れば、とても美しい人である。
推定身長170cmぐらい。細身の身体で、300kgはあろうかというVMAXを自在に操る。しかもすごい美人。

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